岡山市民の文芸
現代詩 −第44回(平成24年度)−


インド考 石井 佳子


気温四十八度
英国風の尖塔がそびえ
赤い実をつけた街路樹が快い
西インド・ムンバイ
支配者が残した名ごりが異彩を放つ
その中のいたるところで 人々は
地べたにへばりつき ごみをかき分けて
命をつないでいる
十億に余る人間がひしめきあっているのだ
高台には城のような屋敷が座し
海にはおびただしい数のクルーザーが浮かぶ
あまりにも矛盾に満ちたこの国の様子
心が萎えてしまう が
はだしで私を見つめる町かどの子供たち
その目のなんと澄んでいることか
興味と好奇の心が私につきささる
そうだ 私は外国人なのだ
この子供たちが成人になるころには
この非対称な社会が改善されているだろうか


デカン高原のはずれの洞窟ビンビトカ
二万年前の壁画に出会った
食事する人々 談話する人々 狩り人
狩りの成果を祈る種々様々の動物
タイコをたたき 手をつないでダンスをする
そんな楽しそうな絵が白や赤の線で見える
いつの時代も人はけんめいに生きている
暑さも忘れ 心がいっぱいになった
村や町のいたるところで出会った
やせ細ったよごれた手を差し出す子供たちが
おなかいっぱい食べられる日がくることを
祈った


毎日、消味期限切れの弁当が
大量に捨てられる
私の国では
何かが 狂っている


今とこれからが 恐ろしくなった


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