岡山市民の文芸
現代詩 −第44回(平成24年度)−


春に洗われた野に 高山 秋津


身籠ったと分かった朝 
春が
空を背負って駆け下りてきた
わたしの中へなだれ込んできた三月の
清々しい勢い
土を押し上げて発芽した植物のように
わが子が育っているのか
この季節が
わたしを母親に変えていく

なんて明るい空の色だろう
乳房が
やわらかい水音を立てる
誕生という言葉が 今
ゆっくりと
呼吸し始めた
守るべきものが在る
守りたいものが在る
わたしの重心がぶれを止め
しっかりと地球の中心に向かうのが分かる


芽吹くもの
蠢くもの
開くもの
たぎるもの
飛び立つもの
数え切れないほどのいのちの気配が
ふつふつと
胎内の温度を上げていく


春に洗われた野に
わたしは
一本の木を植えたばかりだ


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