岡山市民の文芸
現代詩 −第41回(平成21年度)−


コトバムシ 武田 章利


どこを見ても文字ばかり。文字と文字が連なって言葉となっているのに、そこから思いが飛び出さない。
木の葉を食べる虫のように、コトバムシは言の葉をむしゃりくしゃりと食べていける。言の葉は、噛み砕いても味はない。ざらざらが胸まで降りて、消化不良で吐き戻す。ぐちゃぐちゃになった言葉たちは、地球からこぼれ落ちていく人間たちのように、ぼろぼろと口から溢れだす。
時には、胸の柔らかい部分に触れて、そっと沁みこむ文字もある。
それは「す」と「き」だ。たくさんの「す」とたくさんの「き」のなかのさらに特別な「す」と「き」だけを拾う。だけど取りだすとすぐに「す」と「き」もまた、ただの文字となって色を失い、さらさらと流れ落ちる。宇宙で光る星々よりもたくさんの文字を食べてきたはずなのに、口からこぼれるのは、光もしない砂ばかり。
ぶくぶく太ったコトバムシ、ああ、とても素敵なくねり具合で本の上を、声のなかを動いている。指で摘まんで口に入れ、ゆっくり味わってみると、濃い霧のように思いが満ちていた。
自分もコトバムシだったはずなのに、いつの間にか人間だ。コトバムシになりたい。たくさんの文字を食べておいしく太り、食べてもらいたい。



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