岡山市民の文芸
現代詩 −第41回(平成21年度)−


なぜ逝った 岸野 洋介


仲間が歌う賛美歌が切ない
「天に召された」との空しい牧師の告辞
五十余時間前に話をしていたお前が
いま祭壇の花園で眠り
天で復活する時を待っている
 

逝くときは一緒がいいね
それが無理なら
あなたを先に見送って
後から私が逝きますと
言っていたのは
お前だった

 
半時ほど会話が途切れたその隙に
お前は黙って旅立った
音も立てず呻きもせずに旅立った
なぜ黙って旅立った
なぜ? なぜ? なぜだ なぜなんだ


喧嘩して火花を散らした日もあった
法事の席で「作法知らず」と罵られ
庇いあった日もあった。
二人で詠んだ「夫婦の歌」が特選で
帝国ホテルに招かれて
笑顔で並んだ日もあった


花に埋もれた棺の中の
お前の額に手を載せて
永久の別れを告げたとき
お前が生きているようで
躊躇いがちに棺を閉じた


火葬の終了告げられて
白骨のお前を拾い上げ
「死は即ち滅」と呟く
連れ添った
四十七年が今終わる



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