岡山市民の文芸
現代詩 −第41回(平成21年度)−


脈打つ 高山 秋津


この世に出てきたばかりの子を
抱いた
まだ湯気が立っているいのちを
抱いた
こくん こくんと呼吸を始めた生きものの
この小ささよ
この軽さよ


突然
前頭部がヒヨヒヨと脈打った
うねっている
蠢いている
この部分を泉門というのだと母から教わり
ああ ここは
魂の往き交う場所であったのかと
知ったのだった


赤子の柔らかい皮膚の奥に
幾重にも重なり合った人影が見える
この脈に導かれ
母は
わたしの門へと続く道へ
立ったのだろうか
母の母も
この門へと
急ぎ足で向かったのだろうか


わたしは
祈りよりも深く充たされて
わが子を抱く
体温が一際高い
凛凛といのちの発する熱が
きょうを孵化させているに違いない
やがて泉門から
どんな鳥が思いを渡り
飛び立とうとするのか
瑞々しい生を汲み上げ
脈打っている
子の確かな重さよ



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