岡山市民の文芸
現代詩 −第40回(平成20年度)−


岩 藤 由美子


桜の朽ちた幹に
そっと触れてみる
数えきれない葉を繁らせ
夏の盛りに
そこだけ
しんとしずもって
時間の深さを
伝えてくる

幾とせを
生きてきたのか

毎年、優しい花を産み
毎年、健やかな葉を産み
その花や葉は
どれだけ
私の心を包んできたろう

ぽろぽろと
樹皮が剥がれている幹が
樹木の年齢を伝えてくる

去年、冬の空に旅立った
母の姿ではないか
身体が
どんどん朽ちていっても
母は私に言葉を残した
私はひとかけらもこぼさぬように
心の中にしまいこんだ
ありのままの命が
ありのままに
晒されて
出ることも
引くこともない
その姿

老木の足首のあたりに
うすみどりの葉が出ている
母が
手紙をくれたようだ



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