岡山市民の文芸
現代詩 −第39回(平成19年度)−


受け取る 高山 秋津


靴紐が解けたので
道端にしゃがみ込んで結び直す
片足を少し前に出して
背を大きく空に向けたから
背中一面に
早春の光が降ってきたのがわかる


こうして
受け取る姿勢があるのだ


手の平を二つ合わせて差し出す器を
いつでも人は持っているけれど
見えない自分の背面にも
多くのものが注がれていると知った
陽光は
父の大きな手が置かれているようにも
母のほっそりとした指に撫でられているようにも思われた
もっと遡った連なりからもたらされたぬくもりかもしれなかった


懐かしい温度だ
守られて
私の背が昆虫の羽化のように開いていく
まだ温かい昨日を
潔く内側へ折り畳みながら
自分を脱ぐことができたのか


こんな浅い春の陽射しにも
生かされていること を
受け取ったのだった


巡る環の小さな一点に
靴紐を結ぶ私がいる
膝を立て
頭を垂れて
祈りの形そのままに



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