岡山市民の文芸
現代詩 −第38回(平成18年度)−


通り雨 檀上 利恵


私は両手で受け止めていた
秋の終わりの冷たい雨を
言の葉はひらひらと降り積もり
胸の奥に「サヨナラ」という文字だけ
残して消えた


あれからいくつもの秋が逝き
あの日二人の間を
はすかいに墜ちて行った気持ちを
もうつなぎ止める若さもないけれど
突然の通り雨に心が痛む


コーヒーショップの椅子にもたれて
ぼんやりと通り雨を見送る
何かを捨てることは不幸ではなく
春を迎える為に必要な
落ち葉と同じだと
今なら言えるのに


心をほどいて
真っすぐに生きようと思っているのに
やっぱり身体は正直で
右に左に重心を移し
毎日毎日綱渡り
大人になると悲しいことばかり多くて
時々目をつむりそうになるけれど
いつもだれかの優しさに
そっと抱きかかえられて
歩いている


地下街の階段を登れば
まだかすかに雨のにおい
私は青色のバスを待つ行列に並んで
空を見上げる
もう傘はいらない
明日の私はきっと今日より
上手く笑っていると思う
明日の朝
新しいブルゾンで出かけよう
冬が来る



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