岡山市民の文芸
現代詩 −第38回(平成18年度)−


小さな駅で 高山 秋津


たった一両の電車が
小さな駅へ停車した
魚介箱を高々と背負った人が
潮の匂いを連れて降りていく
きょうを耕すために


扉は
しんと開いたまま
独り言まで拾い上げるほどの
静けさだ


私のこころも
ひっそりと
一緒に背負われていった


箱の中でひしめいている魚の
一対の澄んだ眼に
海が映っている
呼び合う魚の住む海に違いない
もう いのちは受け渡してきたのか


かつて
大海のうねりの真中から
送り出された
いきものの連なりが
こうして 再び巡るのだ


私も海へと巻き戻されていく
ふるさとのやさしさへ向かいながら
りんりんと
体に満ちてきたものは
永遠という
明るみだったかもしれない
白く光る螺旋を
次の者へ手渡すために
きょう また わたしは うまれた


電車が走り出した
車輌の床を
ゆったりと
塩の香が
っている



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