岡山市民の文芸
現代詩 −第37回(平成17年度)−


快感原則 ナカオ イチロウ


残業帰りのいつもの列車は
最終列車ほど酔客はいないが
溜息客は多くて
互いの背中に ポトリポトリ


働きアリは
きちんと働き きちんと休むらしいが
一行 また一行と 豊かな行間を求め続ける
わたし人間アリは
重い身体とカバンを抱えたまま
セキタテセキタテ


壁にぶつかれば 相対性理論を説き
難解だが 誤解は解かぬまま
詩など書いて 生を支える背骨を鍛えている


腕立てふせ十回と懸垂二十回の代わりに
「ヒヤリとしたい」と百回言い
「ウレシイ」を口癖にする
理屈抜きの快感原則


列車の窓に映る わたしの顔は
「ウレシイ」という言葉の力で
クックッと微笑むことができる



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