岡山市民の文芸
現代詩 −第36回(平成16年度)−


紙を漉く 高山 秋津


褪せた反古紙を
漉き返す
墨文字が
見え隠れしながら 溶けていく
書かれていた言葉は
大小さまざまな欠片となって
散って行った
絡み合った繊維は
あの日の感情の群れのようだ
点点と 足跡となった文字は
記憶の繁みへと続くのか


水の音
ただ柔らかい水の音
水は
冷気を織り込みながら揺れ
紙は
再び紙となっていく


父が在り 母が在り
父の母も在り 母の父も在り
どこからが始まりなのだろうか
遠い距離を経
見えない大きな手によって
掬い上げられた
私という紙がある
その一枚の紙も また
前後左右に揺れながら
簀面にいつか溶けていくことを想う


水の匂いが
時を漉き
こころを漉く
部屋中に満ちているのは
受け容れるという
静けさだけだ


薄墨色に濡れた紙の表面から
ふいに
温もりが上ってきた



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