岡山市民の文芸
現代詩 −第34回(平成14年度)−


未来の記憶 奥山 玲子


田植えの終わった田んぼの中に
悠久の時が生まれる


温んだ川の水が
乾き切った土くれをどどっと潤すとき
埃っぽいがどこか懐しい匂いが
太古の眠りから
ぼくらを呼び覚ます


今年もまた
ぼくらは還ってきた
田んぼに水が引かれるこの一瞬のために
カブトエビは存在する


この世に目覚めると
草もミジンコも手当たり次第むさぼり食らう
そして再び
ひたすら長い眠りを受け入れる


何の疑いもなく
心一つ後に残さず
土に還る
連綿と続く遺伝子のらせんのかなたを信じて


祖父から父へ
父から息子へ
命のバトンは受け継がれる
祖先と同じ姿のまま
ぼくらは三億年を生きてきた


この惑星の乾いた土を
水が潤す限り
未来の記憶は
確実によみがえる