岡山市民の文芸
現代詩 −第34回(平成14年度)−


洗顔 斎藤 恵子


光る蛇口から
透明な冷たさがほとばしる
勢いよく泡立ちながら放たれる
両手を器にして
急いで顔にもっていく
指の間からこぼれおちる
きらめく朝


手にあふれさせながら受ける
額に頬にあごに鼻に
たっぷりと与え
きっぱりと昨日を落とす
皮膚からしみこんでくる
切れるような清らかさ
ぎゅんと引きしまる


今日のことだけを考える
先々のことなど考えたら
手が止まってしまう
ごはんを食べて
仕事に行って
それから
わからない
わからないから
きっと平穏なのだと思う
真新しい朝にふれたばかりだから
ふれただけでも頬に赤みがさしてくる


洗面台にぴちぴちと跳ね
頬にもちいさく光る
朝の粒子がふくらんでいる
鏡の前で背をのばし
にいっと微笑む