岡山市民の文芸
現代詩 −第32回(平成12年度)−


これからの夏 小椋 貞子


ラムネ瓶を
胸の高さに持ちあなたを待つ


瓶のくびれに絡めた指の
爪の色は海の色
激しくたゆたう心に
指先は大きく波を打つ


海面を疾走する海上スキーのスピードで
恋心奪われてしまった安易さに
ちょっと背を丸めて自分を責めている


燃えてゆくのか
蒸発して消えてゆくのか
この恋の行方は群青色の海の中
私はボートとなり 今
あなたの海へと漕ぎ出した


麦わら帽子を左手で押さえ
白いビーチサンダルの足には
くっきりと靴下のあと
錆の匂いの風に
ラムネ瓶をかざし
始まったばかりの航海に
広き帆をぴんと張る


ぐらりと揺れる水平線
これからの夏へ 少し
迷う舳先


カロカロとビー玉を鳴らせば
期待への高鳴り


あなたを待つ
恋の加速度で海は波立つ
ほうら
あなたが広げた腕が見えてきたよ


すっくと立って麦わら帽子を高く振ろう