岡山市民の文芸
現代詩 −第32回(平成12年度)−


雷鳴 高山 秋津


雪になる前の
雷が鳴る音を
初めて聞いた
青年の
勇気のような音だ
共鳴して
私の椅子が
音を立て始める
胸の壁を激しく揺すりながら
椅子は
全身で音になろうとする


腰掛けた私の膝の上には
いつも
こどもがいたのだ
心地良い重みが
安堵というひざかけに包まれていたが―
雷鳴を受けて
無数の日常が
ひとつひとつ剥がれていく
積み重ねてきた思いが
飛び散っていく
“母”という冠も
消えていく



椅子には私ひとり
つめたく透き通った気配に
身震いしそうだ
何かが見えそうで何も見えない
何も見えないけれど
何かが見えそうではないか
かつて であったものが
記憶の中を通過して行き
出口を見つけて
溢れ出そうとする


私の「きのう」は
もう
雪の下だ