岡山市民の文芸
現代詩 −第31回(平成11年度)−


夜明けに 高山 秋津


白く 厳かに
夜が
一冊の本のように明けてきた
頁が進んで行く冴えた音の中に
深い杭のように
自分を立たせていたい


まだ影が形を見せないこの時刻
私の後には ひっそりと
過去だけが寄り添っている
片眼の野良猫や痩せたコスモスや
短くなった鉛筆を慈しんでいた子供の頃から
漂流という日常は
続いているのだ
小石のように小さな変化を繰り返しながら
何を見ていたか
何に渇いていたか
何に震えたか
何を汲み上げたか
人が  物が  言葉が
光が  闇が  音が  匂いが
欲が  嘘が  澱が  誇りが  業が
地の上の全てのものが
たった一つの私を
日々の上に立たせている
と 気付いた時
祈った事などなかったのに
まだ少し温かい「きのう」にくるまって
いつしか
私の心は 跪く


胸の動きと
夜明けの呼吸が
重なったようだ
静かに凛と満ちてくる朝の気
さあ
私が私でいるために
「きょうの私」という
種子を蒔こう



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