岡山市民の文芸
現代詩 −第30回(平成10年度)−


春は 高山 秋津


鈍く光る珠を抱いて
じっとうずくまっている少年のようだった
時が
自意識の粒を放ち始めた
青々と 音を立てて


わたしの中の魚がはねる
わたしの中の鳥が飛ぶ
わたしの中の樹が芽吹く
そのとき そのときの
わたしを形作って来た生きもの達が
一斉に蠢き出し渦となる
孵化する声
打ち出される鼓動
始まる合図
開く気配
ある朝 突然
心の壁面を光が射抜いていく
身体の奥底まで
ドウとなだれ込んできた
この不思議な勢い


春は
昨日を犠牲にして
明日を守っているのかもしれない
何かを失くし
何かを見つけ
何かを下ろし
何かを背負う
常に過ぎて行く美しい気迫と対峙して
どんな形の
もう一人の私と
邂逅することになるのか
還元を見るのか


春は何処にもある
誰もが内部に渦を持っている
春にも果実は実るのか
人もまた一つの実であるが―



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