岡山市民の文芸
現代詩 −第28回(平成8年度)−


疾走 圓戸 志麻子


そのとき 路上は
まっすぐに続く一本の線のまま
一台の車さえ通ることなく
おき去りにされていた


ふたたび風がざわめきはじめ
私は
あとからあとから追ってくる
街路樹たちの枝先から逃れようと
ペダルを踏んだ
鈍い光が空から射して
不気味にきれいな雨あがり
嵐はいまだ終らない
つかのまの日だまりを走りぬけていく


翼に時が満ちてくる
世界はなだらかに動いている
ちからをこめてペダルを踏んで
これから先はもう逃げない


きっともう
路上の果てに広がる
くらい海を想って
ひとり泣いたりしない
くだけ散る波におびえて
目をそらしたりしない
きっともう
こころふるわせる何かの前で
この身をすくませたりしない
走りつづけるかぎり
この路上を
走りつづけているかぎり


風をはらんで加速しつづける
翼に時は満ちている
いまだ見えないあしたのために
ちからをこめて いまをいきる



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