岡山市民の文芸
現代詩 −第28回(平成8年度)−


はつなつの雨 岩藤 由美子


はつなつの雨水が
ガクアジサイの
花弁を
ひたすらたたく


秩序…
壊れたのか
壊したのか


雨だれが
記憶の地面を
掘り返す


砕けた
硝子のかけらを
ありったけのちからで
握りしめるような
血なまぐさい傷みが
あらわになる


過去は
いつでも
未熟な画家だ
その過去に
まだ引きずられているのか
「今」が私の先頭ではないか


忘れたいことを
きっぱり流してくれるなら
雨よ
もっと激しく降りつづき
野獣のように
牙をむけ


雨が止んだら
その時こそ
童女のように はにかみながら
静かに
きのうを
通り過ぎてゆこう



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