岡山市民の文芸
現代詩 −第26回(平成6年度)−


「春」が来て 玉上 由美子


父が 逝って


山が 山でなく
川が 川でなく


い ま
「さっき」 の 現実が
「むかし」 となり


「むかし」 への拘りが
様々に錯綜する


この私の天秤は
右に振れ
左に振れ
か お
ヤジロベエの無邪気な 表情の中には
戸惑いもあったのだ と
解ったりもする


父が 逝って


母が 母でなく


揺らぎ揺らいで
と き
当たり前の 瞬間が
当たり前でなく 過ぎていく


それでも 食卓には
「冬」 が来て
「春」 が来て


あの時
抱えるには 重たすぎた
「父なし子」
という言葉さえもが
菜の花のおひたしの中に
隠れてしまったりもする



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