岡山市民の文芸
現代詩 −第26回(平成6年度)−


二元の時間 余頃 政敏


叱られた子どもは川辺に来て泣いた。
母はその子を追いかけようともせず
鳥だけがその子の頭上で一声鳴いた。


西の空が茜色に染まり 夕焼けていた。
子どもは小石を拾って無表情に川面へ投げた。
空しい音が返ってきて その子の心に波紋を広げた。


十歳の子には十歳の知恵。
叱られた腹いせに
そんな遠くもない川辺にやってきた。


母の時間が流れ 子どもの時間が流れ
気まずいその質量の差が
その子を家に帰らせない。
その母の懇願を実のらせない。


鳥がまた一声鳴いた。
夕焼けはとっくに消えた。


刻一刻 時間は逝き 時間は生まれ
母の時間と 子どもの時間と
不協和音のまま終曲を迎える。


だいだい色のあかりがともるまで。
電車の警笛が夕靄に沈むまで。



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