岡山市民の文芸
現代詩 −第24回(平成4年度)−


隧道 奥山 玲子


愛車を駆って
長い隧道に入る


土ぼこりの匂いが鼻をつく
ものみな黄土色に帯電し
非現実色の物体と化した


私の皮膚も髪の毛も
心までが
かさかさと乾いた音を立てている
もはや私の肉体は
にじみ出す心を引き止めるすべを
失った
ただの器になってしまった


ここはどこ
暗黒の宇宙 それとも
懐しい母の胎内か
いや違う ここは 私の心のなか


突然の対向車のクラクションに
はっと得体の知れない影が
足元に転がり落ちる


愛車は 出口を求めて彷徨っていた
追いすがる過去を引き離し 引き離し


出口までのあと〇・五キロメートル!
なりふりかまわず
転がっている心をかき集めて
外へ
光の中へ
とりあえず
逃避する



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