岡山市民の文芸
現代詩 −第23回(平成3年度)−


朝の水底に 高山 秋津


砂漠が
沈んでいる
顔を洗う水の奥底に


軋むように鳴いているのは
「きのう」が
砂粒になった音だ
水面は 今朝も
花が崩れていくような
白っぽい笑いを浮かべている
すくえば水は
不分明な薄い膜となって
わたしの顔を
おおった


指の間から
数羽の鳥が
放物線上に飛び立って行ったのは
砂漠の真ん中の
切なさに
ぶつかってしまったから
髪の毛一本の震えさえ
気付かせるつもりはなかったのに
わたしは
何に怯えているのだろう
少女と老女の間を
無防備なままで
小石のような小ささで
変化していることは
誰にも悟られてはいないはずだ


時間の影がたゆたう水中に
乾いた溜息が
ひんやりと揺れてくる


たぶん 明日も
わたしは
こうして
朝に
対している



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