岡山市民の文芸
現代詩 −第21回(平成元年度)−


迷子札 山本 照子


首にぶらさがったまま
はずそうともがいても
呪縛にかかったようにはずれない
古ぼけた迷子札


五歳の時
母が私の頭をなでながら
無言で首に
迷子札をかけてくれた
××郡××村字××
山峰キヨ長女 照子


十六歳の私は
憑かれたように走り続けた
見なれた
お地蔵さんが
半鐘台が
どんどん遠ざかってゆく
突然見知らぬ海がひろがった
止まっていたヨットに
乗ろうとする私の前へ
迷子札にすいよせられたように
白っぽい服の老婆があらわれた
そして私を
母の所へつれもどした
家の前では
母が白い手で
おいでおいでをしていた


いまも迷子になるたびに
霧の奥で
おいでおいでをしている
母の白い手のところへ
誰かが私をつれて行く



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