岡山市民の文芸
現代詩 −第20回(昭和63年度)−


挽歌 真鍋 健二


春の嵐に 吹かれて
桜の花びらが 散ってしまった
その花びらを 五枚だけ集めて
封筒に入れて あの人に贈ろう
宛名は たった一言「春が来たよ」と書いて
果して 配達の人が 送ってくれるだろうか
あの人は 煙と一緒に
天国へ昇天してしまったのに…
人々はまだ気付いていない
私が 天国のあの人と
表紙に記入したとたん
人達は 私を置去りにして
遠ざかってしまった
残された円の中心には
空しさだけが タムロして
あの人に呼かける声は もう出ない
「愛していたよ」と言う一言は
のど佛で つかえたまま
のみ込む事も はき出す事も出来ないまま
少しずつ 上下している
こんな私を 誰か
桜の花びらと一緒に
封筒の中に 入れて下さい



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