岡山市民の文芸
現代詩 −第20回(昭和63年度)−


開ききった薔薇を見るのは 高山 秋津


開ききった薔薇を見るのは
ピッと水の中で割れた硝子の器を
手探りで拾うような
生温い不安


薔薇との呼応の中では
生きることの惰性は
影を潜めてしまう
それは
私の「時」をも停止させる
一つの焔だ


しんなりと柔らかく
崩れるように
からみ合っている花弁は
寡黙な女の髪の毛のように
芯の方から冷えてくる


開ききった薔薇は
夥しい情欲と感傷を重ねながら
褪せていく時間までも
誇らしげに見せつけて
ただ
音もなく
暮れていくのか


空ではない
無ではない
曇った鏡が
しだいに
結像していくような
恐ろしいまでの
手応えがある



短歌俳句川柳現代詩随筆目次
ザ・リット・シティミュージアム