岡山市民の文芸
現代詩 −第19回(昭和62年度)−


石原 和美


縁側の黒ずんだ柱に
カタカナのナとキが 鉛筆で書いてある
縦棒は右下? それとも左下?
幼い私が迷った印


縁側でまっ白い画用紙に
幼い子どもが字を書いている
裏返しのく=@裏返しのに


そうして
縁側の先のガラス戸の向こう
空が白く光るあたりに
たくさんの子どもたちが書いている
迷いながら 手を汚しながら


それは やがて
この家に住む子どもたち、なのだろうか


その模様で眠りにつこうとする私を息苦しくさせた天井が
触れると煤がつきそうで、けっして手を出せなかったかまどの奥が
うっすらとほこりのたまった引き戸
どうしてもうまくあかない木戸
 みんな
ある日 後ろから私を抱きとるものであり
また ある日 私を地にひきずるものであり
そして、今
日常の風景になってしまった


 ナ、キ、ナ、キ、ナキ
 く、に、く、に、くに


羽ばたこうとする鳥は
あまりの空のまぶしさに総毛立ち
いつか止まる黒い梁


暮らしながら 夢見ながら
目はいつも縁側
心はいつも縁側の先



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