岡山市民の文芸
現代詩 −第19回(昭和62年度)−


祈り 真鍋 健二


高血圧性脳内出血 妻の病名だ
レントゲンが 脳を刻んで見せてくれる
外科医が メスをちらつかせて
優雅に 頭脳の周りに集まる
頭蓋骨を丸く切取って
生命の糸を結ぶ
のどを切開して 酸素を送り込む
担架が静かにICUに消える
私の胸の奥の扉から扉へ
冷え切った空気が流れた
呼吸も脈拍も血圧も
アラビヤ数字が支配する
その数字を解きほぐすのが外科医で
その答で一喜一憂するのが
愛情と云うもので
人情など入れ込む余地はない
私の胸の奥の扉から
すうーと姿を見せる慚愧
この迷路から抜け出せるのは何時か
このまま とっぷりと時間の中に漂って
ひたすら 祈るしかない
なま
妻よ  のまゝ 私の胸に帰っておくれ



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