岡山市民の文芸
現代詩 −第19回(昭和62年度)−


しまい風呂 鶴見 哲子


しまい湯の
少しぬるくて薄いにごり
それは幼い日に遊んだ小川の
苔のついた水たまり
石を動かすと
ドンコツがさっと出て
又かくれた夏の
水たまりはお風呂の様に
温かった。


しまい湯に
洗った身体を沈めて
両手拡げてポチャ、ピチチュ
十本の指のフル活躍
湯面を打って
ズイズイズッコロバシゴマミソズイ
ポチャ、ピチチュ


十何年の学窓に
一度も甲を貰った事の無い音楽
私一人の獨演会
やがてそれは
小川を流れる
澄み切った水のはじく音
水が水を打つ音
水が水の上をころがる音
水の音は幸の音
結婚目近の妹の
井戸端で洗濯していた
水の音
私の指ももう止めた。
もう出なければ心配して
のぞきに来る。



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