岡山市民の文芸
現代詩 −第18回(昭和61年度)−


薄暮 高山 秋津


荷台に
こぼれるように
切り花を積んで
さびついた自転車を
老女が
押して来る


鈍色のぶらうすから
日焼けした腕が太い
遠い日に
彼女がなくしたものを
私は 大事に抱え
私が 捨ててしまったものを
花が 持っている


感情を溜めるだけの
勇気があれば
一日は
こんなに簡単には終わるまい


いき
花の 呼吸
いき
私の 呼吸
重なって
両肩に
もたれていることに
この人は
気づいているだろうか
ポッと
明るい灯を背負った
花売りは

角を曲がって行った
置き去りにされて
私は
心をすりむいた



短歌俳句川柳現代詩随筆目次
ザ・リット・シティミュージアム