岡山市民の文芸
現代詩 −第16回(昭和59年度)−


針供養 河原 久子


一本の針に通された糸の如く
素直にあなたに従う私だった
人生という一枚の着物は未完成のまま
不意に折れた針  私の指に血を残して
あなたは永遠に眠ってしまった
生涯をただ一本の針に託した私なのに
取替へられない針
残された糸にその進路はない
朽ち果てた物の如くぼろぼろに切れてしまう
縺れた糸なら解かれもするが……
再生の意志は根底から崩れてしまう
然し  生きねばならない現実は皮肉
取替へられる針の道
あれから二十餘年の歳月は夢と過ぎ
日に夜をついでの戦いに
折れ針  錆び針  曲り針
小さな瓶の中に犇めいてゐる
振れば幽かな音がする
髣髴と泛びくる  あなた
針供養の一刻である



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