岡山市民の文芸
現代詩 −第15回(昭和58年度)−


私に声を掛けないで下さい 安本 至登己


私に声を掛けないで下さい
私は、あなたに呼び掛けられても、おこたえできません
あなたに「ことば」の不自由な私のつぶやきを
理解していただけるでしょうか


仲間の多くもみいーんなあきらめているんです
あきらめながら期待しているんです
わかろうとして欲しいんです


障害者の苦しみは誰れにもわかってもらえません、
自分のつらさや悩みは自分だけのものです
大切な友達のことさえも…わからない
身体の痛みは障害者の数だけちがうのです


あわれんで車いすを押そうとしないで下さい
わたしは覚えています
歩道の段差に車イスの車輪を取られて、あなたの親切にすがった時
振り向いたあなたが足を速めて 立ち去ったのを…
私しは悲しくはありませんでした
慣れっこだからではありません
悲しさよりもつらかったのです
手足の動かぬこの身がつらかったのではありません
一瞬、私をめずらしいものでも見るようにながめ
私からわざと離れて通り過ぎるあなたの姿を見たのがつらかったのです
障害者になるのにお金も努力もいりません
身体の不自由な人 そう「障害者」は
明日のあなたの姿かも知れませんね…



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