岡山市民の文芸
現代詩 −第15回(昭和58年度)−


(運動公園にて) 吉永 ゆり子


夕暮れの公園に石の低いベンチを見つけ
ほっとして座ってみる
目の前をふいに人が走り抜けた
うつむいていると続いて又一人
痛むつま先やふくらはぎが
もうこれ以上歩けないと信号を送る
重い腰も大きくうなずいてしまう
汗がにじむショートカットの地肌を
夏の終りの風が通り抜けかけ
生暖かくなってあわてて逃げだした
天幕のような高い木立に囲まれ
見上げると枝葉の間から
まだ青色のわずかに残った空が見える
小さな落葉が風に押されて紙の風車のように
コロコロところがり始める
空の色は益々暗くなり
少し濡れた顔をさらし風に甘える
幹の間を縫って投光器の強い光が差しこむ
輝度が落ちることを望みながら
その光の中で大きく文字を書く
あの大きなネットの向うでは
仕事を終えた人々がつつましく
クラブを振っているのだろうか
夜になってしまった公園では木々達は
急にそっけなくお互いにひっそりと
話し始める
かわいた顔をあげ立ち上った
急にはなやかになった交差点の
青い光の中にふと深い海の色を見て
私は歩きだした



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