岡山市民の文芸
現代詩 −第14回(昭和57年度)−


鬼よ、あっちに ―非行少女の叫びから― 嘉数 純栄


追っかけまわす
鬼よ、あっちに行っていて
鬼のいない間に
洗濯したい


夜風が誘い 洗ってくれる
夜のとばりが抱いて 目覚めさせてくれる
タバコの煙が香を注いで匂わせてくれる


鬼よ、あなたはあっちに行って
 どこの高校だって
 誰れと遊ぼうと
 血は流さない
 迷惑もかけていない


見てしまったんだから
 祖母、父、弟にする仕打ちを
気がついてくれないんだから
 娘の行為は
 あなたの態度を責めてる証だと
見てくれないんだから
 流行の服をまとう肉体の中を
 つっぱり少年の優しい涙を


鬼よ、あなたはあっちに行っていて
 ブランコに乗って 心を揺らし
 指に小鳥をのせて 浜辺へ走り
 ラッパ吹き吹き 友を招く
 十五の春を前にして
 ささやかな宴をはって
 傷つきあった心と
 きらきらする目を
 見せ合いするのよ


 追っかけまわす
 鬼よ、あっちに行っていて
 鬼のいない間に
 洗濯したい


 洗っていたい



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