岡山市民の文芸
現代詩 −第12回(昭和55年度)−


幼年時代 坂本 亜樹彦


こわい夢が
天から降った晩がある。
おっかさんが柱を支えて
おとっつあんが
床板の目を踏みはずす。
マッチを擦って
悪さをした晩は、
小便袋が
西瓜玉ほどふくらみやがる。


口笛吹いて
廊下の木戸を
そっと開けると、
つぶった瞳に
赤顔の鬼が浮かんで消える。


頬をなでたのは
きっと
ばあちゃんの言ってた
小さい皿の河童の風だ。


夏の夢はことさらに
厠の窓を狭くする
汗をふきふき
尻をふきふき
まばたきしている黄色い電燈。


虫の音と
かけっこして、
誰もいない庭をわたると
湿っ気た蚊帳の
青い匂いがなつかしい。
   


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