岡山市民の文芸
現代詩 −第12回(昭和55年度)−


L・Lサイズなる話 岡本 博子


とりあえず一瞬の懐想のあと
爽快に「ええ、元気です。」と
受話器に言葉を交わす
気がつけば時間と近況が
無制限に「あら、そうなの。」と
ファッションみたいに一変してゆく


かきたてるような目先の刺激
夢想し多感だった頃の共通点に
終りを告げる
どうにも面倒な気分にひきずられ
薄情ぽく「じゃあ、またね。」と
よそよそしく乗り移れない


こんなにも私は、情の熱い
性質だったかしらと考えます
健気に思ってもみます
そのまま戯いなく探りあう見栄や
動かぬ心に「まあ、本当。」と
やはり、片耳をかしてしまう


退化した翼を拡がるだけ
拡げ『しかたがないわ。』と
胸の中に聴く
数学的に弾力を失った
とぎれがちな会話から
溜息が誇大に響いて来る


とりあえず、もうこれで
気分に揺れ動く呼吸を安らげ
理想的から不適応に進行した
恋人よ
「さようなら」
   


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