岡山市民の文芸
現代詩 −第12回(昭和55年度)−


秋の夜のファンタジー 牧野  薫


晧晧と冴え渡る青い静寂に
鳴きしきる虫たちの音色がそれぞれの波紋となる。
小さな音色のさざ波を巻き込みながら
ぶつかり合い、まじり合いながら、かぎりなく拡がっていく。
生きた“証を未来へと伝える厳粛なそして刹那的な熱波となって、
かぎられた時の中でのはげしい息づき
姫りんどうはその花びらを軽く閉じ 音色の波間にたゆたい
夏菊の色とりどりの小花は やわらかな香りを放ち
咲き遅れた朝顔のつぼみは 気位高い姿でそれらの鳴音のうねりに身をゆだね
次第にミりはじめる
ゆるやかな時の移ろい
青い静寂がすこしづつ後ずさりしはじめ
白っぽいピンクの明るみが拡がりはじめるとき
恍惚を胎内にとどめられなくなり
朝顔の花は思わず自己を開放する
………朝………



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