岡山市民の文芸
現代詩 −第11回(昭和54年度)−


秘密販売人 見垣 典子


貴女は気付いているだろうか
主婦という名の隠れみのに身を包み
すきあらばとピンクの爪をとぐ
秘密販売人の存在に。


田舎者の私などさしずめ絶好のカモ
一杯のコーヒーを飲み終わらぬうちに
巧みな話術のとりこになる。
そっと抱きしめていた小さな秘密
きらめくような大きな秘密を
ぜんまい仕掛の人形みたいに話してしまう
女豹のしなやかさで襲われたことさえ気づかずに


さあ それからの彼女は大忙し
売り出しは早いにこしたことはない
小さな秘密は赤いリボンで飾って
大きな秘密はもっと大きく見えるよう上げ底をして


利口すぎる女や
男勝りの女はお呼びでない
暇すぎる女や
おしゃべり好きな女は上得意様


秘密を買った女達はいそいそと隣の家の戸をたたく
新しい秘密販売人の誕生だ
彼女等は玉ころがしの糞のように増えてゆく
でもいつになったら気付くのだろう
手のひらからこぼれ落ちていったやさしいものに。



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