岡山市民の文芸
現代詩 −第10回(昭和53年度)−


秋ニ題 大森 よしえ


  その一


わたしの足あとが無い
ここに こうして立っていたのに
わたしの足あと
砂は無情か さらさらと くずれて
おまえさんには 用が無いとばかりに
消してゆく


生とは? 死とは? ゆっくり
語りあえる 友も私も時間がないのです
坂を越えて 坂の向うに
何があるのか
友も わたしも知らない
 (あるとすれば焦慮かも)


髪を染めて 髪型を変えて
身なりを整えても
時間は 私を待ってくれはしない
砂丘に陽が沈んで
わたしの足あとが消えても
あしたは 新しい陽が
砂丘に昇るでしょう


私は歩く 今日もあしたも
老いさらばや 老いさらばや
呪文のように 口ずさみながら
わたしの足あとが
たしかに地につく日まで




   その二


おや 眼の中にごみが入りましたね
あの人はやさしく私に声をかけた
ええ
今にも泣き出しそうな私に・・・
ポトリ 一雫の涙が落ちる
あわてて拭うわたしに
もう眼の中のごみはとれましたね
さあ 笑顔して歩きましょう
あしたへ 遠いあしたの為に
悲しいことは今日で忘れなさい
辛いことも 今日で終りにしましょう


あしたは あしたはもう
涙とお別れ
涙の壷は からっぽ
空っぽのその壷に 千代紙の
折鶴を入れるの
一羽が二羽になり 二羽が三羽に
やがて つぼに折鶴が溢れて
溢れた折鶴は大空へ舞い上る
ひとりぼっちじゃない わたし
ひとりぼっちじゃない わたし


一年が経ち 二年が経って
時は流れゆく
やがて 少女は大人になりました
大空へ消えて行った 幻の折鶴
きっと掌の中に帰ってくると信じながら


幸せは小さくていいの
てのひらにのるだけの幸せでいいの



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