坪田譲治を訪ねて

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 お化けの世界 昭和10年3月「改造」に発表

「お化けの世界」は、昭和10年3月、山本有三の紹介で『改造』3月号に発表。予想外の好評で迎えられ、譲治は、一躍文壇の人となりました。苦節40年にして、やっと花開いた出世作です。

 あらすじ

ふとした父親の手落ちで莫大な借金を抱え、差押をうけることになった家庭。不安におびる子供、やりきれない気持ちで死ぬことを考えている父親の気持ちを描き出した小説です。
かわいい我が子と遊んでいる内に死ぬことができたら、と考える父親。
冬の日、教室の外はどこまでも真っ白。目を教室に転じると先生も友達も真っ黒な獣のように見えだし、思わず「獣の学校だ」と、異様におびえる三平の姿が読者に強烈な印象をあたえます。

風の中の子供 昭和11年9月〜11月・東京朝日新聞に連載

「風の中の子供」は昭和11年9月から11月まで『東京朝日新聞』夕刊に連載され好評を博しました。
この作品は、岡山の島田本町にあった島田製織所(ランプ芯工場)が舞台になっています。
肉親と肉親との間に起こった血で血を洗うようなみにくい大人の争いのなかで、善太、三平がどのように生きていったかを浮き彫りにしたのがこの作品です。
善太、三平は、暗く厳しい現実の中にあっても、その現実に打ち負かされず、大人をかえって勇気づけています。
無垢で天真爛漫な子供のありのままの生き方が、大人の厳しい世界を跳ね返しています。

 子供の四季 昭和13年1月〜6月・都新聞に掲載

「子供の四季」は、昭和13年1月1日から『都新聞』に連載され、坪田文学の最高傑作と高く評価されている作品です。
坪田譲治は、すでに文壇での地位も確定しているためか、一種の風格をもった作品となっています。それは先の二つの作品で述べたように、子供の純真無垢、天真爛漫さが、大人の陰気な陰謀に打ち勝っていく様子がこの作品でも描かれています。
『子供の四季』では、それらがさらに強調され、大人のよみもの、子供のよみものといった境界が全くなくなって、人間の生きることの尊ささえ感じさせる作品となっています。
前二作と違って、この作品に初登場した小野甚七老人の三平と共通する無邪気さ、あたりはばからぬ豪放快活なその性格が見事に描きあげられています。この二人の人物こそ坪田譲治自身の性格が生む出した理想の人物なのです。
つまり、二人のもつあたたかさユーモアが、全体の暗さを救っているとも言えます。これがこの作品のもつ特徴でしょう。

 岡山市教育委員会指導課(平成10年3月24日発行)
集団読書資料「坪田譲治」より

 

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