源氏物語屏風 紙本金地著色 源氏物語屏風を見る

 周知のとおり『源氏物語』は11世紀の初頭に描かれた宮廷物語である。『源氏物語』の絵画化は、室町時代末期から江戸時代にかけて狩野派、土佐派、宗達派等さまざまな画人によってさかんに行われた。

 本図は各隻とも縦148.2センチメートル、横349.2センチメートルで、物語の中から名場面のみを取り出して吹抜屋台の描法により俯瞰的に表現している。諸所に傷みや剥落はあるが概して保存状態は良好である。
源氏物語屏風をみる
「夕顔」
 右隻第1扇上部には光源氏が夕顔に出会う「夕顔」の情景が描かれている。源氏が白い花をのせて差し出す扇は「夕顔」の象徴として蒔絵などの意匠にしばしば用いられる。その下「花散里」では源氏の一行が中川の家の前を通り女の琴の音を聞く場面、また第3扇から第4扇にかけては源氏元服の儀式を扱った「桐壺」の場面が描かれている。左隻では第1扇・第2扇に描かれている「若紫」の情景が目をひく。北山の僧都の坊で源氏が逃げた雀を追って出た紫の上を初めて垣間見た有名なシーンである。
源氏物語屏風をみる
「若紫」
 それぞれの描写を見ていくと、まず人物は的確かつ伸びやかな描線で比較的大ぶりに描かれている。さらに胡粉の盛上げによる金雲の処理や衣服の文様、樹木や水波の技法など、無落款ながら相当な力量を持った絵師の手になることを感じさせる。特に画中画として場面の随所に見られる水墨山水画は、画家の正統性を予想させるに十分なように思われる。

 いずれにしても、江戸時代前期に描かれた源氏絵屏風の優品と言えるだろう。
参考文献 『源氏絵』(日本の美術119) 至文堂
(前田 興) 
源氏物語屏風を見る
このページの解説は「岡山県文化財総合調査報告」(1990.3 岡山県文化財保護協会)から転載しました。
※現在、源氏物語屏風は岡山シティミュージアムが所蔵しています。(令和3年度時点)

もどる

岡山シティミュージアム デジタルアーカイブ  Okayama City