本章では薬用植物のうち、身近にある草、花、花木など5種類を取り上げ、その植物の特筆事項や栽培管理及び利用について取り上げるが、特にその植物の特徴的性質と原産地の生育気候条件を知識として習得しておくと、その後の栽培管理が容易で育成時の成績が非常に良い。
  このことは薬用植物に限らず、他の植物にも該当することでもあるので、参考にされたい。
  なお、その他の主な薬用植物とその効能を下表に示しておいた。

表 身近な薬草(薬効が科学的に未解析なものも含む。)

薬効 植物名 薬効 植物名
耳鳴り キク 疲労回復 シソ
低血圧 クコ 水虫 スイバ
脂肪分解 チャ 発汗 オナモミ
食欲不振 ハッカ 貧血 ゼンマイ
皮膚病 カタバミ ツワブキ
むくみ タンポポ 消化不良 リンドウ
打撲 ヤマユリ 排膿 オミナエシ
胃酸過多 リンドウ 鎮痛 アケビ、クズ
切り傷 チドメグサ 止血 カタバミ、ヨモギ
魚毒 シソ、ツワブキ かぶれ ゲンノショウコ、ツユクサ
火傷 アロエ、レンゲソウ 去痰 キキョウ、シオン、サクラ
下痢 ゲンノショウコ、チドメグサ、コノテガシワ 湿疹 サクラ、ツユクサ、ナンテン
はれもの アオキ、ツワブキ、ヤマユリ 健胃 エビスグサ、アロエ、タンポポ、ハッカ
便秘 イタドリ、エビスグサ、スイバ、アロエ 消炎 オミナエシ、クズ、クリ、クコ、ヨモギ
鎮咳 ウチワサボテン、キキョウ、シオン、ナンテン、ノビル 利尿 アケビ、レンゲソウ、チャ、ゼンマイ、タンポポ、ツクシ
目まい キク

 

オオバコ  (オオバコ科オオバコ属)
オオバコ  東アジア原産の多年草で、日当たりが良く、乾燥し易い場所(野原、道ばた、荒れ地、庭先など)を好み、環境に対する適応力があり、繁殖力も旺盛で採取も容易である。
  一茎多花であるが、個々の花がとても小さくて、手に取らないと一花を見分けるのが難しい。
  秋に扁平楕円形で黒褐色の種子を多数つける。
  種子は水分を含むと粘液層が外面を覆い、触れるものに張り付いて運ばれ、道筋に繁殖していくが、乾燥時はさらさらしている。
  繁殖は、こぼれ種子で広がるほど発芽が旺盛なので実生で行う。

オオバコ  生薬名は全草を「車前草」、種子を「車前子」という。
  薬効は鎮咳、去痰、利尿、消炎、下痢止め、はれものなど。
  「車前草」または「車前子」8〜10gを1日量とし、コップ1杯半(約300cc)の水が半量になるまでゆっくりと煎じて、1回にコップ4分の1杯(約50cc)を1日3回、食後に服用する。
はれものには、生薬をもんだものを厚めにたっぷりと貼る。

シラン (ラン科シラン属)
シラン  東アジア原産の多年草で、原野の湿原や草地に点生する。
  性質は強健で栽培しやすいが、乾燥にはやや弱い。
  一茎に4〜10個の紅紫色の花をつけ、花壇や鉢植えに向くが、切り花としても重用され、一般的には薬草というより草花として認知されている。
  繁殖は、偽球茎を3〜4球程度に分割する株分けで行なう。

シラン  生薬名は偽球茎を「白及」という。
  薬効は消炎、胃潰瘍の吐血、ひび、あかぎれなど。
  「白及」3〜5gを1日量とし、コップ3杯(約600cc)の水が半量になるまでゆっくりと煎じ、1回にコップ半量(約100cc)を1日3回、食間に服用する。
  ひび、あかぎれには、「白及」の粉末を食油で練り、患部に塗布する。

ドクダミ (ドクダミ科ドクダミ属)
ドクダミ  東アジア原産の多年草で、やや湿った半日陰の場所(道ばた、山地、庭先の湿った日陰)に多いが、乾燥した場所でも十分育つ。
  花は一茎一花で黄色の花と純白の総苞(葉の変化したもの)をもち、特有の臭気があるが、乾燥すると匂いはほとんど無くなる。
  繁殖は、株分けと白色の地下茎で行う。

 ドクダミ 生薬名は全草を「十薬」という。
  薬効は血管強化、高血圧、腎臓、胃腸、利尿、便秘、解毒、化膿、腫瘍、鼻炎、蓄膿症、はなづまりや皮膚病など、効能のデパート的存在である。
  「十薬」10gを1日量とし、コップ3杯(約600cc)の水が半量になるまで煎じて、1回にコップ半量(約100cc)を1日3回、食間に服用する。
  湿疹、はれものには生薬を火であぶるか、すりつぶして患部に塗布する。
  蓄膿症、鼻炎などには、火でかるくあぶった生薬を丸めて鼻に差し込む。

ユキノシタ  (ユキノシタ科ユキノシタ属)
ユキノシタ  東アジア原産の多年草で、日陰でやや多湿(池や流れに面した北斜面など)の岩場を好む。
  花は多茎多花で「大」の字型をした白色の花をつける。
  繁殖は、実生又は株元から伸長する赤糸状の匍匐枝で分株を行う。

ユキノシタ  生薬名は葉を「虎耳草」という。
  薬効は消炎、利尿、解熱、鎮咳、火傷、かぶれ、はれもの、歯痛、小児のひきつけなど。
  「虎耳草」10gを1日量とし、コップ3杯(約600cc)の水が半量になるまで煎じて、1回にコップ半量(約100cc)を1日3回、食間に服用する。
  火傷、かぶれ、はれものに生葉を火で軽くあぶるか、すりつぶして患部に塗布する。
  歯痛には、生葉で塩をくるんだものを痛む歯で噛む。
  小児のひきつけには、生葉を塩で揉んだ絞り汁を口に含ませ、速やかに医師の診察を受ける。

クチナシ (アカネ科クチナシ属)
クチナシ  台湾、中国、日本の関東以西原産の常緑低木で、冬の乾燥した冷たい風を嫌い、腐植質に富む湿りけのある肥沃な土壌を好む。
  ジャスミンのような芳香をもつ白い花をつけるが、クチナシは種子を利用する生薬なので、八重咲き種は結実しないため、薬用にならない。  繁殖は、6月頃に剪定した新梢、前年枝を挿し木にする。

 クチナシの実 生薬名は種子を「山梔子」という。
  薬効は鎮静、消炎、解熱、利尿、胆汁分泌、胃運動抑制、打撲、挫傷、不眠症など。
  「山梔子」5〜8gを1日量とし、コップ3杯(約600cc)の水が半量になるまでゆっくりと煎じ、1回にコップ半量(約100cc)を1日3回、食間に服用する。
  打撲、捻挫に、「山梔子」の粉末に「黄柏」(キハダの粉末)と小麦粉を混ぜ、酢(穀物酢)で練り患部に厚く塗布する。