岡山市民の文芸
随筆 -第45回(平成25年度)-


ゴム手袋 堀田光美


 「私とこで治療ができませんので、病院を紹介させてください」
 さっそく紹介された大きい病院に行くと、MRIとかいうものを勧められた。気持ちのええもんじゃねぇ。
「骨腫瘍と言いまして足首の骨を癌にしゃぶられ、体を支えられるだけの骨は残っていませんねぇ」
   △愛されて骨の髄までしゃぶられた
 切り落とした足は合同葬をして、希望があれば灰の一部を小さな骨壷に入れて返してくれるそうな。どうしょうか思ようたら、長男が首う振った。灰を持ち帰って、いつまでも、めそめそするより、どうやって歩くかのほうが大事じゃねぇんかと教えてくれたんじゃ。
   △看護師が痛いですかもあるまいに
 担当の看護師さんが、
「痛みますか」
 と聞いてくれんさる。
「そりゃ痛ぇわあ」
 と言いてぇが、やさしい声で心配してくれとるのに、そげぇな、えげつねぇこたあよう言わん。
「我慢のできる範囲です」
「病院に居て我慢しちゃあおえんのよ」
 岡山弁で返されて、ほっとした。病院は我慢するとこじゃねぇ。思わず笑ろうたで・・・。
   △清拭がゴム手袋をして触る
 看護師さんが体ぁ拭きぃ来てくれる。一週間に一回じゃったり、二回じゃったり、座るときも、転がるときも、抱ぇてもらう。こっちから抱きつかにゃおえんこともある。うれしいんじゃ。せぇが。
 下半身は両方の足を持ち上げ、赤ちゃんのオシメ替えとおんなじじゃ。八十歳前のおじいさんがよ。でえれえ恥ずかしいんじゃ。
 ボディソープ言うんか、介護用清拭剤言うんか知らんが、ガーゼのハンカチみてぇな物に染み込ませて、耳のうしろから首筋、背中を拭ぃたら抱っこで転がされ、胸、腹と下りて、股間を拭いてくれんさる。看護師さんが二人がかりで、起こしたり、転ばしたり、裏返したり、オモチャにされる。足の先まで一通り終わると、パンツぅ履かせパジャマを着せて片づけをはじめる。
 清拭剤やガーゼなどまだ使えるもんを箱の中ぇ仕舞い込んで、使うたガーゼやら汚れたもんをナイロン袋へ入れて、おしめぇかと思ったら、手袋を脱ぐんじゃ。若い女性に裸ぁ拭いてもろうて舞い上がっとるもんじゃけぇ手袋をしとるやこう思いもせなんだ。薄ぃゴムのやつじゃけぇ、騙されたようなもんじゃ。
(わしの体ぁ汚物か)
(そりゃ汚物じゃ。汚れとんじゃ)
 患者の体を触るときゃ手袋をするよう教えられとんじゃろうけぇ。看護師さんが正しいんじゃ。じゃがのお・・・。やっぱりさびしかったなぁ。

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